konstの地図──描きたい、その先に

渡部 忠

福祉施設に通うクリエイターの創作の機会を拡げ、いつしかそれが還元につながっていく。そのための方法は無数にあります。そのなかで私たちkonstがとっている方法について、書いておきます。

私たちの地図

私たちは、自分たちの立場を自分たち自身で把握し、それを伸ばしていくための地図を持って動いています。地図といっても、道順を決めたものではありません。ワークショップそのものは、かっちりと整えず、その場で見つけた小さな発見から毎回つくり変えています。軽井沢でワークショップを続けてきた私たちの地図の中心にあるのは、次のふたつです。

描きたいという行為そのものに、美しさを見る

ひとつめは、描きたいという行為そのものに美しさを見出すことです。

作品を前にすると、つい、できばえに目が向きます。飛び抜けた表現力を持つ人がいることは、確かな事実です。ただ、私たちがワークショップで目を向けているのは、できばえだけではありません。その手前にある時間です。筆を持つ。紙を切る。ちぎる。重ねる。手の動かし方は一人ひとり違いますし、その人がどこに喜びを感じているのかも違います。

できあがったものだけを見ていたら、きっと見逃してしまう美しさが、そこにはあります。konstのワークショップでは、そこから生まれるものも含めて、すべてが美しいことを前提にしています。

参加したいという気持ちの表し方も、人それぞれです。言葉にする方もいれば、そうでない方もいます。その気持ちを日々受け止めているのは、いちばん近くにいる支援員の皆さんです。私たちのワークショップは、そうした積み重ねの上に開かせていただいています。

その先に、自然に還元が生まれる

ふたつめは、創作の場に来てくださったクリエイターの皆さんに、その先で自然に還元が生まれることです。まず描きたいという行為があり、還元はそのあとから生まれてきます。デザインする対象があらかじめ決まっているワークショップでも、手を動かす時間のなかでは、この順番は変わりません。

軽井沢町社会福祉協議会との協働事業「アート・あぷりえ」では、ワークショップで生まれた原画が使われたとき、どの原画が採用されたかにかかわらず、参加したクリエイター全員を還元の対象にしています。その場に集まった人たちの関わりや響き合いが、作品を生み出したと考えているからです。詳しい流れは「還元のルール」の記事に書きました。

還元は慈善としてお渡しするものではありません。創作に対する、正当な対価です。参加した時間がいつしか誰かの手に届くものになり、その対価がつくった本人のもとへ戻っていく。その流れを、ひとりの「選ばれた人」だけのものにしないこと。描きたいという行為に美しさを見出しているからこそ、私たちは、採用された一枚だけでなく、その場に参加した全員に還元を届けています。

全国の福祉施設へ、すこしずつ渡していく

このふたつを手段として、全国の福祉施設にすこしずつ渡していく。それが、私たちkonstの方法です。

どこまで取り入れるかは、それぞれの施設が決めることです。ただ、これをkonstの方法として渡すときに、変えてはいけないことがふたつあります。

ひとつは、描きたいという行為そのものに美しさを見出すことです。支援員や私たちのものさしで良し悪しを選び、販売に結びつけるのではありません。創作そのものに美しさを感じ、それをデザインに活かします。商品や展示に合わせて原画を選ぶことはありますが、それは作品の良し悪しを決めることではありません。

もうひとつは、参加した人たちに分配することです。割合や渡し方は案件ごとに違っていても、参加した人たちに届くことは変えません。

そのほかは、土地と企業や店舗とのつながり、規模、時期、人員に応じて、ワークショップや販売のスタイルを調整するべきだと思っています。

軽井沢の外でも、都内や北海道などの遠隔地で、セミナーとワークショップを通じて伝えています。あわせて、ワークショップの組み立てや還元の考え方を、参考にしていただきやすいかたちで言葉にしています。「konstがこれから重ねていきたいこと」の記事も、この文章も、その一部です。

その先に向けた準備も、進めています。私たちのワークショップに来ていただかなくても、全国の福祉事業所の皆さんの手元に、この考え方と方法が届くかたちです。少し時間はかかりますが、支援員の皆さんがじっくり確かめ、それぞれの場所で次の創作を考えるきっかけにしていただけるものにしたいと思っています。

どこかの町のアトリエで、描きたいという気持ちから、ある日の創作がはじまる。その時間がいつしか、つくった人たちのもとへ還元として戻っていく。そんな場所が、ひとつ、またひとつと増えていったら、とてもうれしいです。