ワークショップに浸かると、絵を描きたくなる理由
身体が冷えているとき、湯船に浸かると血のめぐりが戻ってきます。それと似たような感覚が、創作にもあるのではないかと思うことがあります。
しばらく自分の手で絵を描いていないと、手が動かなくなります。描きたいものが見つからないというより、描くという行為そのものが遠のいていくような感覚です。そんな感覚を、私は月に2回開いているワークショップの中でよく感じています。
私はkonstとして、軽井沢町の福祉施設に通う障がいのある方々を対象にした創作ワークショップを運営しています。参加者するクリエイターの皆さんに向き合いながら現場に立っていると、自分でも筆を持ちたくなるような感覚を覚えることが多々あります。
創作ワークショップの時間、その場所で、参加するクリエイターの皆さんは黙々と手を動かしています。そして不思議なことに、その場を離れたあと、私自身も自分の部屋で絵を描きたくなるのです。
なぜワークショップに身を浸すと、創作への意欲が戻ってくるのでしょうか。この問いを、私なりに解きほぐしてみたいと思います。
他者の手が動く場に身を置く
ワークショップでは、クリエイターの皆さんが手を動かしています。隣の席で絵の具を混ぜている人がいて、向かいの席で紙を折っている人がいます。そこには、創作が行われている空気があります。自分ひとりで部屋にこもっているときには感じられない、ゆるやかな連帯のようなものが生まれます。
誰かが手を動かしている様子を見ていると、私自身の手も動かしたくなります。それは競争心とは少し違います。むしろ、創作という行為がそこに存在していることを、身体が思い出すような感覚に近いのです。絵を描くことは特別なことではなく、ただ夢中で手を動かせばいいのだという当たり前が、クリエイターの皆さんの手の動きを通じて戻ってきます。
クリエイターの皆さんの手の動きには、うまく見せようとか、こう描くべきだという意識から自由な、迷いのない線があります。それは、技術の巧拙とは別の次元にある、創作の本来の姿なのだと思います。ワークショップで出会うクリエイターの皆さんの創作に触れるたびに、私は「自由で制限のない創作」とはどういうものかを、教えられている気がします。評価や正解を求めない手の動きが、忘れかけていた創作の原点を、私に思い出させてくれるのです。
きっかけが、自由を連れてくる
ワークショップでは、たいていクリエイターの皆さんに小さなきっかけをお渡しします。画材を用意したり、色や形のヒントをご提案したり、進め方の目安を示したりします。
創作から遠ざかっているとき、私はしばしば「何を描けばいいのだろう」という問いに直面します。選択肢が無限にあるように見えて、実際にはどこにも手がかりがありません。そんなときに小さなきっかけがあると、その問いから解放されます。ちょっとした手がかりを起点に、ただ描きたいものを目指して手を動かせばいいのです。その単純さが、創作への入口を開いてくれます。
そして不思議なことに、そのきっかけをもとに手を動かしているうちに、自分の時間でも手を動かしてみたくなる意欲が湧いてきます。
ワークショップを終えたあと、自分の部屋で、自分なりのテーマを見つけて描きたくなります。それは、クリエイターの皆さんと一緒に手を動かしたことで、手が創作を思い出したからなのかもしれません。
完成を求めない時間
ワークショップで参加するクリエイターの皆さんが描いたものには、完成にとらわれない伸びやかさがあります。それでいい、という空気がそこにはあります。完成や未完成を判断するのではなく、ただ手を動かして創作に向き合うことが大切な柱になっています。その時間が、私にとっては大切です。
創作から遠ざかっているとき、私はしばしば「何のために作ろうか」という思いに縛られます。そう思うと、手が動かなくなります。けれどワークショップでは、完成しなくてもいい。途中でもいい。失敗してもいい。そういう向き合い方があります。
その向き合い方の中で手を動かしていると、創作とは完成を目指すことではなく、手を動かし続けることなのだと私は思い出します。そして、その思い出しが、ワークショップを離れたあとも続いていきます。自分の部屋で、完成を求めずに、ただ描き始めることができるようになります。
湯船に浸かって身体が温まるように、ワークショップに身を浸すと、創作への意欲が戻ってきます。それはおそらく、クリエイターの皆さんの自由な手の動きや、完成や未完成を求めない時間が、創作という行為の本来の姿を思い出させてくれるからなのでしょう。そしてその学びは、ワークショップを離れたあとも、私の手を動かし続けてくれます。
もし、この文章を読んで創作から遠ざかっている感覚に心当たりがあれば、ぜひ一度ワークショップに遊びに来てください。外部からの参加も歓迎しています。参加しているクリエイターや、主催している私たちと一緒に、手を動かしながら創作に加わっていただけたら嬉しいです。