20人が同じ1枚の紙に筆を入れる。全員の得意が重なるとき、アートはもっと魅力的になる
ある日の午後、konstのアトリエに並んでいたのは、ひとりの「スター」が描いた作品ではなく、20人近くが同じ1枚の紙に筆を入れた大きな作品でした。
誰の筆跡がどこにあるのか、もう見分けられません。それでも、できあがった絵には確かなまとまりがあり、見る人を惹きつける力がありました。
私たちは福祉施設でのアート活動について、最初から「才能ある一人」を探すことを目的にしていません。大切にしているのは、「参加する全員」へ創作の機会を返す仕組みです。
これまで、障がいのある方々のアート活動では、ずば抜けた表現力を持ち「スター」と称される個人が注目されることが多くありました。
そうした特筆すべき芸術能力を持つ人がいることは、確かな事実です。一方で、絵を描くことが得意でない人、集中力が続かない人、そもそも筆を持つこと自体に不安を感じる人にも、それぞれが持つ固有の表現や得意があります。
私たちは、そのすべてを「芸術」として認めることを出発点にしています。
そのような、福祉の理念である「すべての人への機会提供」と矛盾する状態が生まれないように、私たちは、アートが持つ力をもっと広く、平等に届ける方法を探る必要がありました。
その中で選んだのが、参加者全員で一つの作品を協力してつくりあげる方法です。誰かが下地をつくり、別の人が色を重ね、また別の人が線を引く。誰かの筆の上に、次の人の筆が紙の上で重なっていく。
できあがった作品に個人の署名はありません。その代わり、参加した全員の手の跡が紙の上に等しく残っています。
この方法を実現するには、ワークショップの設計が大切です。私たちは、参加者のスキルレベルに関係なく誰もが関われる「役割」を用意しました。
下地づくり、色の選定、鑑賞と振り返り。各工程に異なる参加のかたちを組み込み、全員が「自分の居場所」を見つけられるようにしました。
評価の軸として大切にしているのは「うまい・下手」ではなく、「どれだけさまざまな手の跡が重なっているか」です。その結果、参加者たちは指示を待つこともなく自由に筆を動かせるようになり、言葉を使わない対話が紙の上で生まれるようになりました。
アートの価値は「誰が描いたか」ではなく、「誰が関わったか」に宿る。そういった方向性が、私たちの活動のベースにあります。
ひとりひとりに芸術と呼べる個々の得意がある。飛び抜けた才能を持つ人がいることを認めながらも、それだけを特別視しない。
全員がそれぞれの得意を持ち寄り、同じ紙に筆を入れることで、誰ひとりでは生まれなかった、より魅力的な創作が生まれる。それが、私たちの信じる協働の力です。
効率や成果だけを追えば見過ごされてしまう選択かもしれません。けれど私たちは、その「非効率」の中にこそ、福祉とアートが本当に交わる場所があると信じています。これからも、参加する一人ひとりへ創作の機会を返す仕組みを、丁寧に育てていきたいと思います。