北欧の福祉施設では、誰が「美しい」を決めているのか──Formverkstanで見た、選ぶことの思想
「待つ」という支援のかたち
スウェーデンのストックホルムに、Formverkstan ※1 という福祉施設があります。ここでは、知的障がいや精神的な困難を抱える人びとが、陶芸やテキスタイル、グラフィックデザインなどの創作活動に取り組んでいます。施設の名前はスウェーデン語で「フォルムの工房」を意味し、モノをつくることが日々の中心に置かれています。
訪問して最初に感じたのは、支援員たちが「美しい」を決めることをほとんどしていない、ということでした。制作物に対して評価や指示を下すのではなく、その人自身が何かを見つけ出すのをじっと待っている。その姿勢がとても印象的で、施設全体にゆったりとした時間が流れていました。
干渉しない、でも離れない
Formverkstanの支援員が徹底しているのは、「待つ」ことです。美しさが生まれてくるまで、気長に寄り添って待つ。必要とされている場面では、手をそっと差し出します。だけど、必要以上には干渉しないで、また優しい眼差しで、待ちます。
これは簡単なことのように見えて、実際にはとても難しいことだと思います。困っていそうな人を前にして「助けないでいる」ことには、強い意志と信頼が必要です。Formverkstanの支援員たちは、利用者のひとりひとりをクリエイターとして見ています。だからこそ、その人のプロセスを尊重し、外から「答え」を持ち込まないのではないでしょうか。
クリエイターだから知っている、「待つ」の意味
それはおそらく、Formverkstanの支援員たちが、デザイナー、陶芸家※2などそれぞれがクリエイターであることと、関係は少なくないと思います。美しさは、ボタンを押したら出てくるものではありません。突然やってくるものだと、経験的に知っているからこそ、「待つ」のだと思います。
なぜなら、「待つ」は創作の一部だからです。インスピレーション※3が降りてくるまでの時間、素材と向き合いながら次の手を模索する時間——それは制作における「空白」ではなく、創造のプロセスそのものです。支援員たちはその感覚を自分自身の創作を通じて知っているから、利用者の「待ち時間」を信頼して見守ることができる。そう感じました。
選ぶのは、つくる人自身
「美しい」を誰が決めるのか、という問いは、福祉の場においてはとりわけ繊細です。支援する側が「これがいい」と決めてしまうことは、つくる人の主体性を奪うことにもなりかねません。Formverkstanでは、その問いに対してひとつの答えを実践で示していました。「決めるのは本人だ」という、シンプルな信念です。
支援員が美しさを定義しない。利用者が自分のペースで、自分の感覚で、何かをつかみとっていく。その過程を支えることこそが支援の役割であり、Formverkstanというスタジオが大切にしている思想なのだと、僕は感じました。
※1 Formverkstan:スウェーデン・ストックホルムにある福祉施設兼クリエイティブスタジオ。知的障がいや精神的困難を抱える人びとが、プロのクリエイターとともにデザイン・陶芸・テキスタイルなどの制作活動を行う。Instagram: @formverkstan
※2 陶芸家:粘土などを素材として器や彫刻などを制作する職人・芸術家のこと。Formverkstanでは陶芸がプログラムの中心のひとつに置かれている。
※3 インスピレーション:外部の刺激や内的な気づきによって突如として浮かぶ創造的なアイデアや着想のこと。