空間に「誰かの筆跡」を取り入れる──空間デザインとクリエイターの表現をつなぐ方法
空間の「顔」を変える、絵を替えるという選択
御代田町の複合文化施設MMoP内にある「lagom※1」では毎月、様々なアーティストやブランドの企画展を行なっています。企画ごとに商品を入れ替えると、店舗の雰囲気がガラリと変わります。それは、ある程度の物量を入れ替えることで生まれる変化です。陳列棚の商品が変われば、色も形も変わり、空間全体の印象が刷新されます。
では、同じような変化を、もっと小さなスケールで起こすことはできないか。その答えのひとつが、壁にかけた絵を替えることです。空間に対する物量としてはごくわずかですが、その効果は驚くほど大きいです。
違和感が、空間に息を吹き込む
絵が一枚変わっただけで、空間はまるで別の表情を持ち始めます。砂漠に突然咲いた一輪の花のように、その存在感は周囲との対比によって際立ちます。調和ではなく、あえて「違和感」を取り入れることで、「自分自身が美しさに出会うための準備」が始まります。
この効果は、絵画に限ったことではありません。「誰かの筆跡※2」が印刷されたプロダクトや布でも、小さな変化を空間にもたらすことができます。手書きの文字やドローイングが持つ、機械では発しにくい表現の奥にある「美しさと呼応するアンテナ」が、空間にひとつの「可能性」を与えます。
クリエイターの表現を、空間デザインに接続する
店舗の内装デザインは、竣工時に完成するわけではありません。時間をかけて育てていくものだと考えると、アーティストやクリエイターの作品を継続的に取り入れることは、空間を訪れる人に「美しさを感じるアンテナ」を立て続ける有効な手段になります。
店舗が企画する展示会のように一定期間で作品を入れ替えることで、常連のお客さんにも新鮮な発見があります。そしてそれは同時に、まだ世に知られていないクリエイターの表現を、日常の空間に届けることにもなります。店舗とクリエイター、訪問者が互いに何かを交換し合う関係──それが、空間デザインの新しい可能性のひとつだと思います。
気軽に始められる、空間のアップデート
大規模な内装工事は必要ありません。一枚の絵を替えること、誰かの筆跡が宿ったプロダクトをひとつ置くこと、それだけで空間は確実に変わります。コストを抑えながら、空間の鮮度を保つことができます。
重要なのは「調和」だけを目指さないことです。あえて異質なものを取り入れる勇気が、空間に個性と物語を生みます。あなたの店に、誰かの表現を迎え入れてみてください。
※1 lagom:長野県御代田町の複合文化施設MMoP内に位置する、北欧家具をメインとしたセレクトショップ。著者・須長檀が運営する。
※2 誰かの筆跡:アーティストやクリエイターによる手書き文字・ドローイングなど、人の手の痕跡が感じられる表現のこと。