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“いのちのテキスタイル”の生地制作にご協力いただくマナトレーディング株式会社様インタビュー

この記事は、軽井沢病院 の稲葉院長とコンストが取り組む、病気に向き合う方々に生きる力を注ぐ“いのちのテキスタイル”プロジェクトの生地制作にご協力いただいている、マナトレーディング株式会社 さんへのインタビュー記事です。

“いのちのテキスタイル”とは、軽井沢町地域活動支援センター に通う障がいのあるクリエイターの皆さんとコンストが協働してオリジナルのデザインを制作し、そのデザインをテキスタイル化。カーテン、クッションカバー、ランプシェードとして軽井沢病院の病室を装飾するアートプロジェクトです。

マナトレーディングさんは、東京を中心に、大阪・名古屋・広島・福岡・仙台にショールームを持つインテリア企業です。同社のオンデマンド印刷を活用したテキスタイル制作事業「träffa träffa(トレファトレファ) 」にて、“いのちのテキスタイル”の生地化に快くお力をお貸しくださいました。
今回のインタビューでは、マナトレーディングさんが「福祉×デザイン」に造詣が深い理由、これまでの活動内容、そしてオンデマンド印刷による生地制作事業「トレファトレファ」がはじまった経緯などをお聞かせいただきました。


お話をお聞かせいただいた方

齋藤洋平(さいとう ようへい)さん
マナトレーディング株式会社
代表取締役社長

木谷友美(きたに ゆみ)さん
マナトレーディング株式会社
新規事業室 シニアスタッフ


はじまりは、ドナルド・マクドナルド・ハウスの取り組み。

須長(コンスト) 先日は、“いのちのテキスタイル”の制作にご協力いただき、ありがとうございました。今回のような「福祉×デザイン」にまつわるプロジェクトに、みなさんがとても誠実に取り組んでくださる背景や姿勢について、一度お話をお聞かせいただきたいと思っていました。

齋藤(マナトレーディング) こちらこそありがとうございます。当社が社会貢献的な活動に目を向け始めたのは、10年前に「せたがやハウス 」というプロジェクトに関わったことがきっかけです。 私の母が「せたがやハウス」でボランティア活動をしていまして、施設で改装の話が出た際に、(私たちの)会社でも手伝えることは何かないか?という相談を持ってきました。当時は私の父が社長で、「対価が出なくても、インテリアを必要としている場所があるならやろう」。と、せたがやハウスの部屋のカーテンや壁紙をボランティアで提供したことが始まりです。

須長 ボランティアによる改装のお手伝いがはじまりだったんですね。

齋藤 はい。せたがやハウスは、国立成育医療研究センターの近くにあるドナルド・マクドナルド・ハウス で、入院や通院中の子どもと、その治療に付き添うご家族のための滞在施設なんです。
子どもが最良の医療を受けるために、遠くから子どもに付き添って来られるご家族は、大きな病院の近くのホテルに滞在するか、アパートを借りるケースが多いようで、精神的・経済的にも負担が大きい。そういったご家族に、自宅のようにくつろげる場を提供しようと、マクドナルドがメインスポンサーになって、ひとり1日1,000円で宿泊を可能にした施設が「ドナルド・マクドナルド・ハウス」です。

須長 素晴らしい施設ですね。そのせたがやハウスの改装では、齋藤さんはどういうものをご提供されたんですか?

齋藤 改装前の部屋は、壁全体に白いビニールクロスが貼られていて、床には茶色のタイルカーペットが敷かれているだけ。ご家族が病院からお部屋に戻っても、まだ病院のような雰囲気の空間でした。また、単一の白い壁だと視線が定まらなくて人は落ち着かないものなんです。ですので、視線を定めるアクセントとして、ウィリアム・モリス(※)の柄を取り入れて、その色味に合わせて部屋全体をコーディネートしていきました。

※ウィリアム・モリス…近代デザインの創始者と謳われる19世紀のイギリスのデザイナー。草花や樹木をモチーフとした壁紙が特徴的。

須長 そのプロジェクトに関わられて、どのような発見がありましたか?

齋藤 当社の社員や職人が、壁紙を剥がしたり色を塗るなどの作業を積極的に手伝ってくれたのが印象的で、中には「交通費だけで大丈夫」と言い大阪から駆けつけてくれる職人もいたんです。
ある日、みんなで改装している部屋のベッドを移動させているときに、ベッドの下から七夕の短冊が出てきて、「また一緒に公園で遊びたい」という言葉が書かれていました。おそらく付き添いのご家族が子どもへの思いを込めて書いたものですね。ここでどのような想いを抱えて過ごしていたのかを思い、みんなで短冊を手に30分以上も泣いてしまいました。

須長 それはとても胸に来ますね。

齋藤 そのときに「これは仕事ではなく、自分がやるべきこと」と一人ひとりが同じ思いになって、作業に血が通い始めたのがわかったんです。
こういう心持ちは、日々のお客様対応にも良い意味で影響します。会社説明会でこういった話に共感して入社する社員は文化的なズレが生まれないところにも良い影響を感じています。

ビジネスが拡大するほど、社会への還元が増える仕組みを構築したい。

須長 現在も、ドナルド・マクドナルド・ハウスに関わっているのですか?

齋藤 はい、いまも新しいプロジェクトを進めているところです。ドナルド・マクドナルド・ハウスよりも小規模な「ドナルド・マクドナルド・ファミリールーム」という施設の第一号を手掛けています。
今回の施設は榊原記念病院内に設置されるんです。たくさんの子どもが長期入院や手術のために来る病院で、付き添うご家族も一緒に長時間過ごすことになるので、大人も疲れがたまります。そこで、付き添いのご家族が少しでもリラックスできるスペースとして、病院内にドナルド・マクドナルド・ファミリールームを設置することになったんです。
このプロジェクトは、当社がインテリアのコンセプトづくりからデザイン提案まですべてを担当しています。

須長 すべてを担当しているんですね。どういったコンセプトを提案されたのですか?

齋藤 提案したコンセプトは「Breathing Time/ブリージングタイム(深呼吸する時間)」です。このアイデアは、当社に勤める子どもを持つ女性社員からのもので、彼女も母親で、その経験から病院通いのご家族の気持ちを誰より強く理解できたんですね。
彼女からこのテーマが挙がってきたとき、すごく感動してしまって、(涙をぬぐって)ちょっとすみません。思い出してしまいました。

当時の企画書

須長 素敵なコンセプトですね。

齋藤 彼女は、色彩学や光に関する知識を持っているので、利用する人のニーズを考慮して、丁寧にデザインをしてくれます。インテリアは結局のところ薬と同じで、どのような目的を持ってその処方箋にしたのか、背後に確かなエビデンスが存在するはずです。そういう思いを詰め込んだドナルド・マクドナルド・ファミリールームですので、まだ完成はしていませんが、きっととても素晴らしい仕上がりになると感じています。

須長 きっと喜ばれたことと思いますが、御社からのご提案の際のご提案先の皆様の反応はいかがでしたか?

齋藤 病院とマクドナルド財団にコンセプトを提示したところ、「これで進めてください!」と大変感激していただきました。カラーの選定からすべてを私たちにお任せいただいたんです。とても嬉しいことでもあるのですが、その結果、今後全国で同様のファミリールームの開設が計画されているのですが、それに伴う経営面での出費も増えることにはなりました。

須長 なるほど。現実問題、ビジネスとの折り合いというか、社会貢献のための費用はどのように確保されているのですか?

齋藤 はじめの頃はドナルド・マクドナルド・ハウスも大規模な改装が続いたので、年間で数百万から1000万円近くの支出が続出しまして、正直このままだとどれだけお金があっても足りなくなる。と思い悩んだんです。

須長 それは大変ですね。

齋藤 そうですね。ちょうどその頃、当社が生地の生産を依頼しているインドへ出張したとき、世界で最も人口の多い国で、ある人物との出会いがありまして。彼が「インドのような巨大な国が、日本のようにガソリンを消費し海で乱獲したら、地球は持たないよ」と話してくれて。「今だからこそ、俺たちが持っている無限の資源を利用して社会に貢献すべきだよ」と。

須長 はい。興味のあるお話です。

齋藤 私が「無限の資源とは何?」と尋ねたところ、「それは“デザイン”だ」と答えたんです。

須長 確かに“デザイン”は無限の資源ですね。

齋藤 その話を受けて、私も「世の中には才能を持ったデザイナーがたくさんいる。そのデザイナーたちと繋がり、生まれた収益にあらかじめ社会に還元する費用も組み込む仕組みを作ろう」と考えはじめました。
定価に社会還元のお金が含まれていれば、ビジネスが拡大するほど社会貢献ができる。そういう思いで生み出した事業が「トレファトレファ(※)」なんです。

(※)träffa träffa(トレファトレファ)…マナトレーディングが取り組む、オンデマンド印刷により、環境に優しい技術と生産体制を確立する生地制作事業。生地の生産工程に水を一切使用せず、オーダーを受けた分だけ生地を生産する体制を整えているため、余剰在庫を持つこともなく、環境負荷の少ない仕組みになっている。
https://traffa-traffa.com/pages/about

須長 そうだったんですね。

さまざまな出会いが繋がりトレファトレファが形になる

齋藤 デザイナーが描くデザインを、お客様のオーダーごとにプリントしてご提供したいという事業を考えたときの一番のネックは、やはり製造でした。工場にも採算ラインがあるので、プリントを50cmや1mでパラパラとオーダーされても採算に合わないんですね。

須長 そうですよね。

齋藤 どうやってカタチにしようかなと考えていたときに、たまたま出会ったオンデマンド印刷設備を持っている工場の社長に事業イメージを伝えたら、「いいね。まったく儲からないけどやってあげる」と言っていただきました。その言葉がとてもありがたくて、その後も、その方のおかげで事業を動かしながら「いつか恩返しします」と言い続けて5年以上経ってしまいました。

須長 それは良い出会いでしたね。

齋藤 はい。その出会いのブレイクスルーがなかったら、おそらくトレファトレファは立ち上がっていなかったと思います。

木谷(マナトレーディング) 立ち上げの頃が、はじめて須長さんにお会いしたときになりますよね。テキスタイルデザイナーのスウェーデン在住の方をご紹介していただいたりして。

須長 そうでしたね。

木谷 須長さんにお会いしたことで、いろいろなネットワークが拡がっていった感じがします。この事業はたくさんの“出会い”がきっかけで始まった経緯を込めて、スウェーデン語の「träffa(会う)」から、「トレファトレファ」という名前を名付けました。

須長 いいお名前ですよね。

木谷 ありがとうございます。

齋藤 トレファトレファに参加してくださるデザイナーさんもすごく素敵な方ばかりで、皆さん私たち以上に有名な方ばかりですが、もっともっとこの事業を通じて世の中に知っていただけたらと思ってます。あとは、もっといろいろな人と出会って「より成功しよう」という気持ちがあります。

須長 今回、齋藤さんのお話を聞いて、すごくクリエイティブな方だなと思いました。

木谷 (齋藤さんの顔を見て)良かったですね(笑)

齋藤 ほんとかなぁ〜(笑)

須長 もちろんビジネスですから明確なゴールを持ってるんだけども、途中で生まれる現象に反応しながら舵を切っていくという思考がすごいクリエイティブな方だと思いました。さらにそれをビジネスに繋げるってすごく難しいことだと思うんですけど、それをやられてるのがすごく素晴らしいなってお話を聞いて思いました。

齋藤 ありがとうございます。ただ、業界最大手にはなれないやり方ですよ。
でも、お客様が今後、なにかの理由で1社しか依頼することができない状況になったとき、私たちを指名してもらえるような会社にはなりたいと思っています。そういう意味では、「いいねこれ」「素敵だね」と、ずっと心に残していただけるように、この事業を続けて行きます。

障がいのある方たちの自由な創作が、ビジネスとつながるための設計とは。

齋藤 以前も軽井沢の障がいのある方たちが通われているアトリエにお伺いしたときに、フィルターがかかってない方たちがこの世界や物を見るとこう見えるんだと、生み出される原色や自然物の形にものすごく感動しました。

須長 ありがとうございます。とても嬉しいです。

齋藤 その自由な創作を、一般の方たちが「欲しい」と思えるものに昇華させるには、デザイナーの力が入るわけですよね?そのデザイナーの介入が5:5なのか、9:1なのか、それはどういうバランスなんでしょう。考えるとどれも違う気もしますし、今の私の課題で、そのあたりをコンストさんはどうお考えなんですか?

須長 はい。ちょうどそのお話にも重なりますが、現在、東京のバッグメーカーが障がいのあるクリエイターたちと一緒にプロジェクトを進めてくださっていて、今のお話の答えのひとつになるような流れでした。メーカーがオリジナルの生地を提供してくださっていて、今回は先方から「モノクロ」でお願いします、というオーダーだけ与えられているんですね。

齋藤 「モノクロ」ですね、はい。

須長 「モノクロ」というテーマで自由に得意を生かせるワークショップを私たちが開催して、障がいのあるクリエイターたちがその生地に自由にペインティングするんです。そこで出来上がった生地をメーカーにお渡しして、メーカーのデザイナーがその生地を前に、クリエイターに対してどういう返事をしよう、とデザインを考えてくださるというんです。

モノクロの生地をつくるワークショップ風景

齋藤 コンストさんが持っているデザインストックから使いたい柄を選ぶのではなく、メーカーがコンセプトを提供して、そのコンセプトをもとに、コンストさんがクリエイター向けのワークショップを開催されるんですね。

須長 はい。それはメーカーが「先に仕上がりを固めない」「クリエイターからの手紙を受け止めて返事をしたい」という姿勢で望まれている創作にとってのこれからのカタチですし、そこからとても素敵なバッグが生まれて、そこに一般の方たちの「欲しい」が生まれたら、メーカーにも私たちにもとても明るい未来があるような気がしているんです。

齋藤 それはすごいですね。コンストさんがずっと「クリエイターが創作を生み出す手前のことをデザインしている」と言っていたところの意味がわかりました。
たとえば私たちでも、どう仕上がってくるかはわからないけれど、「ストライプ」を題材にワークショップで図案を作ってもらえませんか?とコンストさんにお願いして、出来上がってきたストライプを見ながら、どの部分をどうやって生地にしたら面白いかな?というクリエイションができるということですよね。それはとてもわかりやすいですし、受け取りやすいです。

須長 ありがとうございます。やっぱり、関わるみなさんが図工的で楽しいのが良いですよね。
もちろん先に作るものを決めないクリエイションでは、出来上がるものを販売する計画も通常よりは難しくなりますが、その仕組みごとメーカーも一緒に楽しんでいただいて、その仕組みが拡がっていくほうが、創作の現場としては正しい方法なのかなと考えています。

齋藤・木谷 そうですね。

須長 そのような方向を一緒に探せるように、今後ともサポートをよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

齋藤・木谷 こちらこそ、ありがとうございました。

このインタビュー後、軽井沢病院にて、お二人に“いのちのテキスタイル”の設置作業を進めていただきました。その様子はこちら。