
この記事は、イベント“Hello Yellow”のギフトユーザーに配布するためのギフトタグ制作をご依頼いただいた、星野リゾート 軽井沢星野エリア ハルニレテラス へのインタビュー記事です。
“Hello Yellow”とは、ハルニレテラスが春の季節に開催されているイベントです。春の訪れを告げる花ミモザ。その花言葉は「感謝」。ミモザ色に彩られた街並みの中で、イベント限定のポストカードに感謝の気持ちを綴ったり、贈り物にギフトタグをつけたりして、大切な人へ感謝の気持ちを表現することができる素敵な空間です。
“Hello Yellow”情報ページ
ハルニレテラスは、「軽井沢の日常」をコンセプトにした、森の中の小さな街。ハルニレの木立の中、湯川の清流沿いに連なる建物を、ウッドデッキでつないだ素敵な空間です。今回のインタビューでは、ギフトタグをご相談いただいたコンストとコラボレーションした際の創作プロセスの感想や、「福祉×観光」に対する考えなどを聞かせていただきました。
お話をお聞かせいただいた方
梨本 美緒(なしもと みお)さん
星野リゾート 軽井沢星野エリア ハルニレテラス運営事務局
須長(コンスト) 今回は、ハルニレテラスのイベント「Hellow Yellow 」において、ギフトタグ制作のご相談をいただき、ありがとうございました。
梨本(ハルニレテラス) こちらこそありがとうございます。制作いただいたギフトタグ、ハルニレテラスの店舗のみなさんも楽しんで配布してくださっています。「ここに付けたらかわいいな」とか、「ギフトラッピングの中に入れ込んでみよう」など、いろいろな工夫をしてくださっていました。
須長 楽しんで使っていただけてとてもうれしいです。私のお店「NATUR TERRACE(ナチュール・テラス)※」でも、ギフト購入がたくさんあるので、使用頻度が高いです。
創作のハッピーな着地点
梨本 “Hello Yellow”では、お客様にメッセージを書いていただくハガキも配布していて、期間中、1300枚を超えるハガキが投函されました。心温まるメッセージがたくさん書かれているんですよ、「来月いよいよ結婚式です。いままでお父さんお母さんありがとう」のような。

須長 それは泣いてしまいますね。
梨本 ええ、そうなんです。お子様の字で書かれた「じいじばあばいつもありがとう」や、旅行に来た友達同士で送り合う「これからも親友でいてね!」、一年前にホテルブレストンコートで結婚式を挙げたご夫婦が「また軽井沢のいい思い出が増えたね」など、そういったメッセージが書かれたハガキが私たちの手元に一旦届くので、“Hello Yellow”は本当に心温まるイベントになったと実感しています。

須長 心温まるイベントの空気は、今回ギフトタグを制作させていただいた私たちも大きく感じていました。障がい者の支援に繋がるデザインが、どのようにお客様に伝わっていくのか、今回のプロジェクトでは、とてもハッピーな着地点にたどり着いています。
梨本 たしかに充実した着地点ですよね。
須長 はい。イベントが掲げる「ありがとうの気持ちを伝えましょう」というコンセプトに、障がい者の支援に繋がるデザインを重ねられたことで、特に意義深いものになったと感じています。

「感謝の気持ちを伝える」イベント
梨本 素敵なデザインのギフトタグが付いたギフトは、贈る側も贈られる側もうれしいものですよね。コンストさんと作ったギフトタグはメッセージも書けるようになっているので、ハルニレテラスで配布されて終わりではなく、お客様の手元に渡って、その時に伝えたい「感謝の気持ち」もギフトに乗せることができます。デザイン的な魅力に加え、ハルニレテラスの店舗「NATUR TERRACE」のオーナーである須長さんが参画しているコンストさんとのコラボレーションも実現しました。私たちが預けたイベントのコンセプトやキーワードが、障がいのあるクリエイターの方たちの手によってカタチになっていくのを、ワークショップを通して拝見しました。生み出された原画は、コンストさんの手によってデザインされ、私たちがイベントに込めた想いがギフトタグとして完成した時は、チーム内でも感嘆の声が漏れたのを覚えています。様々なストーリーが重なることで、とても厚みのある企画になった実感があります。
須長 クリエイターの才能は本当にハッピーで人の心をくすぐるものがあります。その特長をこれまで100%活かしきれていないと思っていたのですが、今回はプロジェクトにその才能がピッタリ一致して、クリエイターの原画の力を存分に活かせた感覚がありました。
梨本 星野エリアで季節ごとに企画するイベントは、例えば、秋空の下で紅葉に囲まれながら本を楽しむ「紅葉図書館 」や、軽井沢の凍てつく冬を楽しむ「フローズンフィールド 」のような、空間を楽しむ演出が多いのですが、今回ご協力いただいた「Hello Yellow」は、感謝の気持ちを表現することをテーマにしています。「感謝の気持ちを伝える」ということが起点になっているため、いろんな感謝にまつわるシーンを想定しました。そうすると関わるスタッフたち自身も温かい気持ちになるんです。さらに、その気持ちをお客様が拡げていってくださるような、そういう感覚がこのイベントにはあります。ストーリー性を大切にするイベントに育てていけたらと思っています。
須長 それは素晴らしいですね。
梨本 ありがとうございます。「感謝」のテーマに、クリエイターの方たちの独自性やピュアな気持ちがマッチしたんでしょうね。

デザインが希望や問題を解決する
須長 今回のギフトタグの制作プロジェクトがはじまった流れを振り返らせてください。
梨本 はい。今回、ハルニレテラスに入店されている店舗とのコラボレーションという形で、NATUR TERRACEオーナーの須長さんが運営されるコンストへご相談させていただきました。入店されている店舗とのデザイン的なコラボレーションは、実は今まで、あまりなかったんです。
ハルニレテラスに入店していただいている店舗の方たちは、そもそも星野リゾートの運営方針に共感してくださっている方たちです。日々のコミュニケーションも取れていて、お互いに信頼関係が築けている。なおかつ、須長さんの商品セレクトや生み出されるプロダクトのデザイン性はお墨付きですよね。
須長 ありがとうございます。
梨本 私自身、ハルニレテラスに入店されている店舗の方たちとイベントを通じたコラボレーションをやってみたいとずっと思っていました。でも、なかなか機会が作れなくて。そこで今回、“Hello Yellow”のギフトタグというコンテンツの企画が持ち上がり、これならばご一緒できるのではないか、と思って、ご相談させていただいたんです。
須長 うれしいです。その後、ご相談いただいた「黄色」というテーマをもとに、打ち出し方や形を考えていくのですが、私たちの制作プロセスでは、デザインを始める前に、そのベースとなる障がい者クリエイターとの原画づくりが出発地点となります。その“原画づくりから始まるプロセス”について、社内のみなさまのご反応はいかがでしたか?
梨本 はじめは、障がいのあるクリエイターの皆さんとどう進めていくのか、まったくイメージできなくて…。
須長 デザインをご依頼される際に、あまり経験されないプロセスですよね。
梨本 はい。私も社内にコンストの制作プロセスを説明する際に、「はじめに、障がいのあるクリエイターの方に原画制作のためのワークショップをやってもらうんです」と伝えて。
でも実際、そのワークショップからどのようなものがあがってくるの? クオリティはどうなの? という、不安の声も社内からあがっていました。でも、須長さんとの信頼関係が土台にあったので、進めてみようという前向きな気持ちは持っていたんです。
須長 わたしたちのプロセスでは、初期段階で、どのようなものがアウトプットされるかわからないところが、どなたも不安だと思います。
梨本 その後、ワークショップを通じて出来上がってきた立体の制作物を前に、私も社内のみんなも大きな魅力を感じながら、次は「この立体がどうやってギフトタグになるの?」と、掴みきれない状況に。
そこでまた社内に対して、その原画をコンストさんの手によってグラフィック化され、デザインされ、私たちがギフトタグに込めた希望や問題を解決してくださる、というような細やかな説明を重ねていきました。

須長 ありがとうございます。
梨本 そして後日、実際に原画がギフトタグとして仕上がったものを手にしたとき、社内のみんなは、とても驚いていました。あの立体原画がこうなるのか、と。
さらにハルニレテラスでは、店舗ごとにショップバッグも異なり、サイズや素材、色味も様々です。それらに付けるギフトタグだったので、大きすぎても小さすぎても合いません。イベントコンテンツとして目は引きたいですが、店舗のロゴを邪魔しない程度の主張加減も難しいところでした。でも、それらが見事に解決されていて。

須長 当初は六角形の垂直な連なりだったのを、カーブを付けることでどんなサイズにも合うようなバランスになりました。お手にとられたお客様が、ギフトを贈る方へ感謝の気持を伝えられるように、メッセージを添えて、たためるようにデザインさせていただきました。
梨本 “Hello Yellow”の「感謝の気持ちを伝える」という企画意図をしっかり汲んでくださって、さらにクリエイターの方たちのピュアでアーティスティックな原画をイベントに沿ったものに落とし込んでいくデザインの過程を追うことができて、私たち自身すごく勉強になる、貴重な機会になりました。
須長 それはうれしいお言葉です。
梨本 デザイナーの方たちの仕事は、私たちの想いを形にしてくださる素晴らしい仕事だなという話を、みんなでしていました。
須長 僕らとしても、梨本さんのようなデザインにご理解がある方が窓口になってくれたからこそ、実現したプロジェクトでもあると思っています。クリエイターがどれだけ素晴らい原画を作っても、それをどう利用できるのかを社内に伝える力のある方がいないと、企画は通らないと感じています。
ですので、良いものができると信じてくださって、デザインの本質を理解してくださる方が窓口になっていただいたのは、私たちにとってありがたいことでした。
企画のプロセスにも興味を持っていただけるように
梨本 今回のコラボレーションは、コンストさんが行っているような、障がいのある方への自立支援のサポート活動と「観光業」との相性について考えるきっかけにもなりました。障がいのあるクリエイターさんとコラボレーションして価値を生み出す手法というのが、観光の目線だと今までなかなかなかったと思うんですね。
須長 なるほど。なぜ、なかなかないのでしょうね。
梨本 旅先では、「非日常」を体験したいというニーズがあり、実際に星野リゾートでも圧倒的な非日常を演出することを意識するシーンが多いです。
なので、標識が小さかったり、デザイン性を求めるばかりになってしまったりして、バリアフリーやユニバーサルデザインの本来の目的が達成できていない状況になってしまうのかな、と思いました。
とはいえ、お客様は多様化しているので、今回のコラボレーションは私たちにも良い気付きが得られました。

須長 では、こういったコラボレーションをまだこれからたくさんの方に知っていただく余地がありそうですね。
梨本 そうですね。
須長 これからの世の中を考えたときに、多方面のイメージを内包するような物事を考えていかないと、社会から取り残されてしまう感覚があって、それは障がいのある方たちのことだけではないですが、いろんなイメージを複合させて作っていく必要のある世の中になってきましたよね。
梨本 そうですね。今までの価値観だけでさらに新しい価値観が生み出せる、ということはまずないと思うので、視点や思考を変えて、思い切ったアクションをしていかないといけないのかなと思います。
須長 そういう試みをするときに、今回のような創作プロセスがすごく大切な気がしています。最初からゴールを決めてクリエイティブなものを作っていくのではなくて、もう少し柔軟な姿勢で、何かひとつを受け入れた状態から新しいものを作るということが、これからの世の中に対しての答えのひとつなのかなと思うんですけど。
梨本 そのためにも、ストーリー性も込みでプロジェクトを考えることが大事ですね。
ただ美しさや面白さを追求するだけでなく、企画のプロセスにも興味を持っていただけるように、ストーリーをどこにどういった形で差し込んでいくかというアイデアが重要なのではないかと思います。
星野リゾートと違う因子を組み合わせる
須長 今回、梨本さんは、実際にワークショップを見に来ていただくなど、理解を深めていただきながら進められたので、本当にありがたかったです。
梨本 ワークショップは私自身、すごく刺激になりました。
先入観だったのですが、障がいのある方たちは、皆さん自由に動かれるイメージがあったので、ワークショップではどのくらい動作をコントロールできるのだろう? 大変なのではないか…、と勝手に心配していたんです。でも、実際に参加させていただくと、“コントロールする”という気持ち自体がおこがましかったと感じて。コンストさんも「いいねこれ!」と、とても自然に接しているし、クリエイターの方たちも出来上がったものに対して楽しそうに感想を言い合う様子があって、すごく安心した環境で自分の手を好きなように動かせているような、気持ちのいい空間でした。
須長 支援員さんたちのおかげもあって、みなさん、安心して創作されていますよね。
梨本 絵の具や部材が自分の手を動かすことで変化していくことを楽しんでいる様子は、子どもの創作と似ていますね。だんだん成長して色々なことを経験していく中で、手を動かす純粋な楽しさを忘れて、思考に偏ってしまいがちになりますが、クリエイターのみなさんは違いました。手の動きを楽しむとか、絵の具の混ざり具合を楽しむとか、そこにすごく集中できていて、忘れていた感覚を思い出させてくれるような、懐かしい気持ちになりました。
須長 本当に自由ですよね。ワークショップでは、私たちも「こういうものを作ってほしい」ということが全然なくて、いままで見たことのないもの、私たちが作れないものを作ってほしいと思っているんですね。そこで何かができてから、じゃあどうしようか、と考えるプロセスなので、すごく面白い反面、発注されるクライアントの方は最初、戸惑うだろうなと思います。

梨本 ご依頼している時点ですごく信頼はしているのですけど、どういうものが出来上がってくるのかがわからない部分に関しては、やっぱり、慣れないプロセスなのでハラハラドキドキですね。

須長 星野リゾートさんに、こういうプロセスでプロダクトを作らせていただいたという経験は、私たちにとっても財産になっていて、障がいのあるクリエイターの活動の拡がりの、大切なきっかけになっていることを本当に感謝しています。
梨本 私たち星野リゾートでは、季節のイベントやサービスなどを、社内の人間でアイデアを出し合って考えているんです。どの季節に訪れても、その土地の、その季節ならではの体験をしていただけるように、常に企画会議を重ねています。
須長 はい。
梨本 今回の“Hello Yellow”では、私たち星野リゾートとは異なる因子であるコンストと組むことで、企画の趣旨を期待していた以上のものに転換できた感覚がありました。
須長さんが冒頭で仰っていた「ハッピーな着地点」にたどり着いたことは、今後に続く大きな実績となりました。このような事例を増やしていきたいと思っています。
須長 それはとてもうれしい言葉ですし、素晴らしい企画がこれからも生まれそうですね。
梨本 はい。ハルニレテラスに入店していただいている方たちとも、もっと新しくて魅力的な価値をお互いに生み出せるといいなと感じています。
須長 私たちも、クリエイターの作ったものが誰かを幸せにするということをもっとやりたいですね。クリエイターとともに何かを作るときに、それは本当に誰かを幸せにしているのか? ということを考えながらプロダクトを作っていかなきゃいけないなと、あらためて思うことができるプロジェクトでした。
梨本 とっても素敵な視点です。観光業もそういうことですね。幸せにするって大事ですよね。
須長 やっぱりみんながハッピーになるのが一番ですよね。今回はありがとうございました。
梨本 ありがとうございました。